メモ1ーサンプリングコラージュ

 自分が育った90年代のポップカルチャーの中で、最も刺激的だったのはサンプリングの手法だった。いまだに自分にとって強烈な存在でいつづけているとおもう。はじめてサンプリングを知ったのは、中学生の時にきいた、フリッパーズギターのアルバム「ドクターヘッズワールドタワー」だった。その中の楽曲「ドルフィンソング」はビーチボーイズの「God Only Knows」の音をループで流していることが有名だ。もの凄くすきな曲だ。それからストックハウゼンアンドウォークマンというUKのサンプリングコラージュを主体にした宅録グループの音楽に固執するように、はまってしまいレコードを全部集めたりしていた。一番馬鹿だったレコードは、buy me というレコードで、meというフレーズの曲が84曲はいっているレコードだった。もちろん全てサンプリング。

Stock-Hausen-&-Walkman.jpg
 ストックハウゼンアンドウォークマンのアートワークはすごく刺激的だった。OH MY BAGというアルバムのアートワークは、全てがどこかにあるポスターやシールとかのコラージュで構成されている。メインビジュアルになっているのは、東京都清掃局のポスターだ。たまたまスーパーで、そのポスターをみたときにすごくおどろいことを覚えている。この場合、アートワークがあまりにも馬鹿げていて、ただインパクトがあるなあ、という感動で完結してしまっていたが、オリジナルの素材なしで、明らかに個性的なものを作り上げるのはすごいなあ、と関心するばかりだ。だってスーパーのポスターをはがして、それを勝手に印刷して出版してるんだから。しかも、アルバムのタイトルも東京都清掃局のものをそのまま使っている。


 サンプリングには色々な目的があると思う。

  • A. サンプリングCDや素材集などを使って単に目的のイメージに合うものを組み合わせる
  • B. 抽象的な素材をコラージュし、なんとなく時代性などを演出する
  • C. 具体的な素材を引用し、新たなイメージを創造する
などだ。
 A.は制作上、素材制作の予算がなかったり、制作するのがめんどくさかったりする時に用いることが中心手法なので今回は関係ないので省きます。B.は最もよく使われる方法だが、これは実は新しい価値をみいだすことがしにくい。どうしても既成のイメージを連想させるところで終わってしまうことが多い。よって、こういう手法でできたものは、サンプリング作品というよりかは、リメイク作品になってしまいがちだ。昔のイメージを現代風に再現させる、という状態だ。デザインなのでもよくあることだけど、昔の20年代とか30年代とかの装飾サンプルなんかを使って、それを広告に用いるというようなことだ。C. は既存の素材を用いて全く別の、新しい価値を生み出す、という手法だ。素材自体をうまく揶揄することができれば、そこにはオリジナルの価値がうまれ、先進的なものとなる。具体的なイメージがある分、その使い方によって、強いメタファーを作りあげることに成功する。


 ドクターヘッズワールドタワーの一曲目の「ドルフィンソング」を、原曲を知っている人が聞くとおもわずビーチボーイズかと思う。

引用元
http://freett.com/fizzpop/music/90s/drhead.html
冒頭のあまりに大胆不敵なビーチ・ボーイズの "God Only Knows" のイントロ、フレンチ・ホルンのサンプリング(しかも無断で)から、 モンキーズの "Head" 収録の名作、"Porpoise Song" を思わせる曲調、歌詞、 そしてふたたびビーチ・ボーイズの "Heroes and Villains" の未発表部分のコーラスのサンプリング(ということは、この部分はブートレグからのサンプリング?)、 それをバッファロー・スプリングフィールドの、サウンド・コラージュのような大作、"Broken Arrow" からのサンプリングへつなぐ。
そして最後にはふたたび "God Only Knows" と "Heroes and Villains" を引用して終了。

 とこういうサンプリングの連鎖の中で、彼ら(時代)が抱えていた”オリジナル”への懐疑心が、嘲笑するかのように奇麗な歌になっている、という風に僕は感じている。でもそこには、単に演出的な手法や、リメイク的なものではなく、連想が連鎖し、メタファーとなって、脳内で新しい価値を生み、ほんとに個性的な楽曲にできあがっている。ほんとすごい。。


 サンプリングにはこういう風に新しい価値を生み出せることろに醍醐味があるのだと思っている。だから概念的な演出をしないで、美意識のみを追求したようなサンプリング的な作品をみるとついつい批判したくなる。